- 2026年10月8日
- 2026年10月20日
「ありがとう」が言えるようになるまで
その方が私たちのところへ来たとき、身体の状態はかなり厳しいものでした。
しかし、私が最初に感じたのは、身体以上に「心が疲れている」ということでした。
病院から離れ、24時間そばにいるヘルパーさんと一緒に過ごす生活が始まりました。
医師が治療をする。
看護師が状態を見る。
ヘルパーがそばにいる。
事務のスタッフが声をかける。
そんな毎日の繰り返しでした。
特別なことをしたわけではありません。
ただ、誰かがそばにいる。
困ったときには助けてもらえる。
話をしてもいい。
怒ってもいい。
何も話さなくてもいい。
そういう時間が積み重なっていきました。
すると、少しずつ表情が変わってきました。
スタッフとの会話が増えました。
そしてある時から、自然に「ありがとう」という言葉が出るようになりました。
私は、この変化をとても大切なことだと思っています。
終末期医療というと、痛みを取ること、呼吸を楽にすること、点滴をどうするか、薬をどうするか、といった医学的な話になりがちです。
もちろん、それは大切です。
でも、人が最後まで人として生きるためには、それだけでは足りない。
「自分はここにいていい」と感じられること。
「誰かに支えてもらっている」と感じられること。
それもまた、医療の一部なのだと思います。
